継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題(1)総論

以前のコラムで、継続賃料評価における預り金的性格の一時金の運用利回りについてまとめましたが、今回以降、賃料の前払い的性格の一時金の取り扱いについてまとめてみたいと思います。

預り金的性格の一時金については、問題になるのは運用利回りのみですが、賃料の前払い的性格の一時金については、鑑定実務上も未解決な問題を多く残しています。

そこで、今回の記事では、この種の一時金として最も代表的と言える『貸家の礼金』を前提として、概ね共通認識の出来上がっている価格評価時の収益還元法における礼金の取り扱いを概観したうえで、継続賃料評価になった場合にどのような問題点が生じるかを整理していきたいと思います。

貸家収益還元法における礼金の取り扱い

基本的な取り扱い

貸家評価における収益還元法は、鑑定評価基準各論第1章に『実際実質賃料(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)に基づく純収益等の現在価値の総和を求める』と規定されています。

そして、実際実質賃料は、基準総論第7章に『支払賃料とは、各支払時期に支払われる賃料をいい、契約に当たって、権利金、敷金、保証金等の一時金が授受される場合においては、当該一時金の運用益及び償却額と併せて実質賃料を構成するものである。』とされていることから、実際実質賃料を求めるにあたって、礼金については運用益及び償却額を加算していくことになります。

更に基準総論第7章における『賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額については、対象不動産の賃貸借等の持続する期間の効用の変化等に着目し、実態に応じて適切に求めるものとする。』という記述を受け、平均賃貸期間をベースに償却期間の設定をすることが一般的です。

運用利回りについては、基準総論第7章で『運用利回りは、賃貸借等の契約に当たって授受される一時金の性格、賃貸借等の契約内容並びに対象不動産の種類及び性格等の相違に応じて、当該不動産の期待利回り、不動産の取引利回り、長期預金の金利、国債及び公社債利回り、金融機関の貸出金利等を比較考量して決定するものとする。』とされていますが、現在は敷金と同一の低利な利回り(Ex.1%)が用いられるのが一般的です。

DCF法における取り扱いと、直接還元法におけるフィードバック

DCF法における取り扱いですが、平成19年の基準改正により各論第3章が創設され、DCF法適用の際の収支項目が整理されました。

この中で礼金は、(運用益及び償却額ではない)実額を『その他収入』として計上するとされました(「その他収入」の項の説明として、「礼金・更新料等の返還を要しない一時金等の収入」と記載されています)。

直接還元法においても、DCF法と収支項目を一致させている鑑定業者が主流ですので、想定される礼金に平均回転率を乗じたものをその他収入として計上するのが一般的になっています。

継続賃料において生じてくる礼金にかかる問題点

上記を前提に、継続賃料評価において生じてくる礼金にかかる問題点を概観します。

償却期間の設定

ビル等の全体について価格時点以降の将来を見る価格評価の場合、テナントの入れ替え等も想定にならざるを得ませんので、償却期間を『平均賃貸期間』で設定することで特段の違和感を感じません。

しかし、当該1テナントとオーナーの、過去から現在を含めた当該契約を見ていく継続賃料では、償却期間の設定がよりシビアになります。

具体に言いますと、

  • 当初契約が平成20年1月1日
  • 直近合意時点が平成25年1月1日(当初契約より5年後
  • 価格時点が平成31年1月1日(当初契約より11年後
  • 賃貸対象部分の性格から把握しえる平均回転期間は10年

とした場合、単純に実際実質賃料を計算すると、

  • 直近合意時点では、一時金の運用益・償却額を含む
  • 価格時点では、一時金の運用益・償却額を含まない

という事になり、実際実質賃料と直近合意賃料も食い違う結果になります(実際実質賃料と直近合意賃料については、過去記事⇒差額配分法における実際実質賃料と直近合意賃料をご参照ください)。

また、一時金の運用益・償却額は結構大きいので、評価結果に及ぼす影響も大きく、『鑑定評価額について、実質賃料ベースでは下がるけれども、価格時点では運用益・償却額が無くなる関係で、支払賃料ベースでは上がる』という気持ちの悪い結論が生じることも有り得ます(下図参照)。

運用利回りを各時点で変更すべきか?という問題

一時点での評価である価格評価とは異なり、複数時点を勘案する必要のある継続賃料の場合、各時点で運用利回りを変化させるべきか?という問題が生じます。

預り金的性格の一時金の運用利回りについては、変化させるべきというのが私見ですが(⇒預り金的性格の一時金にかかる過去記事参照)、敷金と礼金では性格が異なりますので、『一時金だから同じ!』という結論は乱暴すぎると思います。

また、所有者の変更があった場合の礼金の取り扱い(前所有者償却済で良いのか?)という問題も、全く違いそうに見える論点ですが、上記の話を考えるのと同じ視点の中から解決の糸口が見えてきます。

運用利回りの設定に関する問題(敷金と礼金の運用利回りは同じで良いのか?)

最後は、実は継続賃料特有のものではないのですが、継続賃料で礼金について検討を加える中で、『敷金と礼金の運用利回りは同じで良いのか?』という問題点が有ることに気が付きました。

何度も言いますが、礼金の運用益・償却額は鑑定評価額に対する影響も大きいので、「件の仕事のひな形では一緒だから」とか「皆一緒でやってるから」というのは乱暴すぎると思います。

この記事のまとめ

この記事では、継続賃料を念頭に置いた場合における礼金の運用益・償却額についての問題点を概観してみました。

各々についての私見は、また改めて書いていきたいと思いますが、なにせ業界的にも統一的な見解の無い分野ですので、おかしなことを言ってしまう可能性も有るかと存じます。

普段は同業者の方にこの種の文書を見て頂くのは実にこっぱつかしいのですが(笑)、是非是非ご同業者の方々からの忌憚のないコメント等も頂ければと思っております。

どうぞよろしくお願いします。

 

 

2 Responses to “継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題(1)総論”

  1. なかなか興味深い議論ですねぇ。
    私は、平均賃貸借期間に若干の疑問を感じてました。昭和、平成、令和と建物も古くなりますし、地域も変化していくと思われます。
    その中で、価格時点毎に平均賃貸借期間も変化すると思うのですが、はたして、想定出来るのかなぁ??と

    その他収入で取り切りが、なんか、しっくりきます。

    また、みんなのコメント教えてください。

    うすい鑑定web。
    いつも興味深くみてます。 ではでは。

    • 渡辺様
      コメントありがとうございました!
      メールの方に返信を入れさせていただきました。
      引き続き、どうぞよろしくお願いします。

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