継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題(3)礼金の運用利回りを各時点で変更すべきか?

継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題の3回目として、礼金の運用利回りを各時点で変更すべきか?について考察してみたいと思います。

前提:敷金の運用利回りを各時点で変更すべきか?

まずこの論点の前提として、よりシンプルな敷金の運用利回りを各時点で変更すべきか?について概観しておきます。

こちらに関しては、地裁レベルですが「変更すべし」とする判例が有りますし、物件オーナーからすると一時金の運用益収入も時期によって大きな変化が有りますので、敷金の運用利回りに大きな影響を及ぼす市中金利も「事情変更」の要因になり得ます(この辺りは、過去記事⇒継続賃料評価における預り金的性格の一時金の運用利回りについてをご参照ください)。

ですので、直近合意時点・価格時点で運用利回りを変更するのが合理的と考えます。

礼金と敷金の性格の違い

以上を前提に礼金の場合を考える訳ですが、個人的に重要なのは『礼金と敷金の性格の違い』を整理しておくことだと思っています。

これは、お決まりの『預り金的 vs 賃料の前払い的』というような話ではなく、そのお金(敷金なり礼金なり)がどのように動くのか?という部分です。

敷金のお金の動きと、運用益のイメージ

まず、敷金について考えてみますと、賃貸借契約締結後に、一旦オーナーの手元に入ります。

オーナーとしては、もちろん嬉しい部分も有るのでしょうけれど、契約終了時には返金が必要ですので、家賃のように使ってしまうわけにはいかず、契約終了時に備えて保全しておく必要が有ります。

とはいえ、全物件が一気に解約になることも稀でしょうから、その中の一定部分を運用することが可能です。

もちろんオーナーの属性・性格によって、運用をする・しないは有るのでしょうが、鑑定の場合『一般的なオーナー』を想定するので、一定の運用益を計上するのは素直な方向性です。

※ここでいう『運用』は、リアルな運用です。

礼金のお金の動きと、運用益・償却額のイメージ

これに対して礼金は、賃貸借契約締結後にオーナーの手元に入ることで完結してしまいます。

これは、家賃と同じようなイメージで、平成19年基準改正においてDCF法の収支項目で提示された「礼金=その他収入」という整理の方法は、この構造を明確化したものと言えます。

価格評価においては、直接還元式でも平均入金額をその他収入に計上することで、『運用益・償却額』の発想はほぼ不要(あるとすれば一棟貸し等テナント数の少ない場合)になりました。

一方、賃料評価においては、『実質賃料』と『支払賃料』を行き来する必要が有り、そのためには『礼金の運用益・償却額』という発想に頼らざるを得ませんが、リアルな運用ではなく非常に観念的なもの(実際に運用するわけではないけれど、敢えて期間配分すればこうなる、というもの)である点が特徴的です。

礼金の運用益・償却額に対する当事者の合理的意思解釈

以上のような性格を有する礼金ですが、契約上償却方法等の取扱いを明示している場合はほぼありませんので、運用益・償却額の計上等にあたっては、当事者の黙示の意思を合理的に解釈する必要が有ります。

まず、物件オーナー側からすると、運用等にかかる特段の認識は無く、ただ「賃料の前払いが有る部分支払賃料は安くしている」と捉えているのが一般的と思われます。

次にテナント側ですが、これもオーナーが期間償却と運用を行い…等の発想は無く、「この礼金を払った結果の賃料が、今後継続していく」という認識が一般的でしょう。

とすると、礼金の運用益・償却額にかかる両当事者の一般的な認識は、契約時点における『支払賃料の確定要素』であり、これが黙示的に『実質賃料とのスプレッドの確定要素』に繋がっていると解釈することが合理的と判断されます。

礼金の運用利回りを時点によって変更するか否かに対する私見

以上を踏まえますと、賃料評価における礼金の運用益・償却額の計上の意義は、契約時点での『支払賃料の確定』『実質賃料とのスプレッドの確定』にある訳ですので、時点によって運用利回りを変更することは当事者の合理的意思に反することに成ります。

もっと言いますと、直近合意時点・価格時点等においても、礼金の運用益・償却額計上に当たっては、一律契約締結時点の運用利回りを採用するのが、合理的な発想という事になります。

※もちろん、契約内容・賃料改定の経緯等で修正が必要な場合はあり得ます。モデルケースとしてご理解ください。

拡張:物件所有者が変更になった場合の礼金の運用益・償却額の取り扱い

上記と局面は変わりますが、物件所有者が変更になった場合の礼金の運用益・償却額の取り扱いについても同じ発想でアプローチすることが出来ます。

問題の所在

価格評価の発想で行きますと、礼金は新所有者に引き継がれませんので、継続賃料評価においても礼金の運用益・償却額の計上は不要という発想に到達しがちです。

しかし、以下の例を「自分の問題」として考えてみてください。

  • オフィスを借りる際にものすごく気に入ったので、(前)オーナーの要求通り支払賃料の30か月分の礼金を支払った
  • その分、支払賃料は格安になったが、鑑定士的に見ると、実質賃料ベースでみると決して安くない賃料になっている
  • この中で、入居後2年ほどでオーナーが変更になった(その間に賃料水準の変更なし)
  • (新)オーナーは、賃料(支払賃料)が安いと言って、賃料増額を言ってきた

鑑定士的な思考をしてしまうと、「オーナーチェンジは事情変更に当たらない」とか「相当期間の経過は?」等で賃料増額を排除しようと思ってしまうかもしれませんが、その前に素直に気持ち悪い・腹立たしいという部分が有るのではないでしょうか?

当事者意思解釈の整理

今回は(かわいそうな)テナント側から考えてみますと、前述の通り礼金の差入れに対するテナントの合理的意思は、契約時点での『支払賃料の確定』『実質賃料とのスプレッドの確定』にありますので、オーナーが変わってもスプレッドは継続すると発想するはずです。

一方、(新)オーナー側は、礼金は受け取っていないので関係ないという発想をする可能性が有ります。

しかし、(新)オーナー側は、「礼金が高かった分、支払賃料が安くなっている」という当該賃貸借関係の特性を知った(もしくは知り得た)上で物件を購入しているという事実が有ります。

物件所有者が変更になった場合の礼金の運用益・償却額の取り扱いに対する私見

以上を踏まえますと、物件オーナーが変わった場合においても、テナントと(新)オーナーの関係性の中においては、契約締結時点で認識した礼金の運用益・償却額が発生しているものととらえるのが相当と判断されます。

但し、これが恒久的に続く(⇒継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題(2)礼金の償却期間 参照)としてしまうのは、(新)オーナーに酷な部分も有ると思います。

ですので、償却期間の部分で斟酌を加えるとこで、バランスを取っていく必要があるでしょう。

この記事のまとめ

この記事では、継続賃料評価において、

  • 礼金の運用利回りを各時点で変更すべきか?
  • 物件所有者が変更になった場合の礼金の運用益・償却額の取り扱い

について私見を述べさせていただきました。

前回記事(⇒継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題(2)礼金の償却期間 参照)が一応のデータに基づく考察だったのに対し、今回は契約の合理的意思解釈という「脳内作業」によって導いた結論になります。

今回の論点に関しても、いわゆる『独自理論』的な色彩が強く、詰めが甘い部分も多々あるかと存じます。

是非是非、同業の方のご意見等も拝聴させていただいたうえで、当該論点の理論整備を更に進めていければと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。

 

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