継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題(4)礼金の運用利回りの設定

継続賃料評価における賃料の前払い的性格の一時金にかかる諸問題の4回目の原稿ですが、今回は継続賃料限定の話ではなく、価格評価においても論点となる礼金の運用利回り設定について考察してみたいと思います。

『敷金』の運用利回りと『礼金』の運用利回り

一般的に、敷金の運用利回りと、礼金の運用利回りは同率に設定されていると思います。

いずれも同じ『一時金の運用利回り』という観点からすると、そうすることが自然なように思えます。

しかし、礼金にかかる『お金の流れ』や、平成19年基準改正においてDCF法の収支項目で提示された「礼金=その他収入」の考え方からしますと、礼金の運用利回りは割引率還元利回りのような対象不動産自体の利回りにしないと整合が取れないようにも思えます。

従前の議論を整理しますと、敷金の運用利回り・礼金の運用利回りで取り扱いを異にするという議論は私の知る範囲では聞いたことがありません。

但し、一時金一般の利回りとしては、

  • 再投資として割引率と同率とする
  • 別の短期または中長期の運用利回りとする

という考え方が有り、かつては前者の立場が一般的でしたが、ファンド等が敷金の保全を徹底する構造が見えてくる中で、後者の考え方が一般的に来ています。

尚、地価公示においては、平成23年地価公示までが前者で、平成24年以降後者の立場を取っています。

この点、脳内で理屈を考えていても見えてこない部分が有りますし、対象不動産自体の利回りと言っても割引率(土地残であれば基本利率)・還元利回り・期待利回りのいずれが適正かが見えてきません。

ですので、このコラムでは、単純化したモデルで実際に計算を行って、それを拡張していくことで礼金の運用益の実態を探ってみたいと思います。

単純化モデルを使用しての礼金運用益の検証

礼金の運用益の適正な設定法を探っていく手順ですが、まずはイメージしやすい価格評価で、具体のお金の流れを想定しやすいDCF法による評価から検証を始めます(ここで敷金の運用益同様でOKとの結果が出ればストップします)。

次に、前記で対象不動産の利回りが好ましいとなった場合は、割引率・還元利回りのいずれを取るべきかの分岐が有りますので、直接還元法へと展開していきます。

最後に、今までの検証を踏まえたうえで、継続賃料の話に入っていきたいと思います。

以降は、今回の計算で使用するとともに、各種設定を変更することも出来るエクセルシートを用意しておりますので、これをダウンロードして頂き、確認いただきながら読んでいただけると分かりやすいと思います。

礼金の運用益検証シート20200801 

※右クリック⇒「名前を付けて保存」でダウンロードできます。

基本設定

話を単純化するために、価格評価のモデルケースとして、

  • 一棟貸し物件
  • (前所有者に引き継がれる礼金が有るとややこしいので)価格時点で最初のテナントが入居する
  • 契約は10年間の定期借家・NCF(礼金収入を除く)は年100万円・礼金も100万円で途中解約は無し
  • 契約満了の前に、上記と同条件で新しいテナントが決まる(仲介手数料はなし)
  • 以上がループし、(ちょっと強引ですが)NCFの変動は永久に無し

という前提で行います。

これを前提にて、DCF的にキャッシュフローを考えると、以下の様になります。

NCF(礼金を除く) 礼金収入
0年度 0円 100万円
初年度~9年度 100万円 0円
10年度 100万円 100万円

※以降、初年度から10年度までがループします。

普段の査定では、価格時点に礼金が入れば初年度の収入にすると思いますが、そうすると1年後の金額を割り戻すことに成りますので、厳密にいうと計算がずれてきます。

ですので、これを防ぐために、価格時点の礼金収入は0年目の収入に挙げ、それ以降の礼金も1年前(例えば10年目期首の礼金=9年目)の収入に挙げています。

価格評価における礼金運用利回りのDCF法による検証

まずは現実の礼金の流れを表せるDCF法を使って、礼金の適切な運用利回りの決定方法を検証します。

DCF法で候補となる利回りとしては、①敷金の運用益で使用されている利回り(本件では1%を採用します)・②割引率(本件では5%を採用します)・③最終還元利回りが考えられますが、次項に示す通り本件では保有期間を長期にして復帰価値の影響を0みなしにしますので、①敷金同様の運用利回りである1%・②割引率と同率の5%の2パターンでシミュレーションを行います。

ここでは、上記エクセルファイルの『DCF』シートをご覧いただきながら読み進めてください。

ベースとしてのDCF法(礼金をキャッシュ・インとして認識)

まずは、前記のキャッシュフローを前提に(素直な)DCF法による収益価格を求めます。この価格が、礼金の実態を正しく表した理論値としての価格になります。

但し、保有期間を10年等で設定すると、復帰価格の問題が生じて結論がややこしくなることから、保有期間300年として復帰価値を0みなしにします(これまでの設定をベースにすると、300年度のキャッシュフローの現価は1円を切ります)。

これによって求めた価格(平成19年基準改正における取り扱いから導き出される理論値としての価格)は、22,590,082円になります。

礼金を年賦償還率で期間配分したDCF法

次に、運用利回りの適正を検証するために、候補とされる運用利回りをベースに、年賦償還率によって礼金の運用益・償却額を各年収支に期間配分して求めたキャッシュフローに基づいて、DCF価格を求めます。

※礼金の期間配分は、地価公示の新土地残余法で行われている発想です。

礼金を年賦償還率を使用することにより運用益・償却額として期間配分する方法は、地価公示の新土地残余法で行われている発想です。

この発想は、何年かに一度の収入である礼金収入を、鑑定評価額に与える影響なく単年度収支に落とし込むためのものですので、適正な運用りが設定されていれば、

  • 前項で求めたリアルなキャッシュフローを前提に求めたDCF法による価格と
  • 年賦償還率によって礼金の運用益・償却額を各年に期間配分して求めたキャッシュフローに基づくDCF法による価格

は、一致するはずです。

運用利回りについては、前述の通り、敷金の運用利回りで一般的な1.0%とした場合・割引率と同率の5.0%とした場合の2つのパターンを求めます。

各々の場合の年賦償還率・運用益及び償却額は、設定値である礼金100万円・期間10年を前提にすると以下の通りになります。

年賦償還率 運用益及び償却額
運用利回り1% 0.1055820 105,582
運用利回り5% 0.1295050 129,505

ですので、初年度~300年度までのNCFを、前者に付き1,105,582円・後者に付き1,129,505円(ともに礼金を除くNCF100万円に礼金の運用益・償却額を加えたもの)としてDCF法を適用すればよいことに成ります。

その結果等は以下の通りです。

DCF法による価格 乖離率
ベースとしてのDCF法 22,590,082円
運用利回り1%で期間配分 22,111,630円 △2.12%
運用利回り=割引率で期間配分 22,590,090円 ±0.00%

運用利回り=割引率とした場合には、小数点2桁表示でも0.00%と表示される微差しか有りませんが、一般的な設定である運用利回り=1%とした場合には△2.12%の誤差が生じています。

また、NCF・礼金の額・敷金で使用される運用利回り・割引率の設定を動かしても、この構造は変わりません。

この結果により、礼金の運用利回りについては、文頭近くで考察した通り、不動産自体の利回り(割引率・還元利回り等)で設定することが合理的と証明されたことになります。

価格評価における礼金運用利回りの直接還元法による検証(割引率=還元利回り)

次に、不動産自体の利回りとして、割引率・還元利回りのいずれが適当なのかを検証するために、直接還元法での検証に入っていきます。

前記のシミュレーションでは、純収益の変動率g=0なので割引率・還元利回りが同率となりますので、この検証を行うにあたっては、変動率を取り入れたシミュレーションが必要になります。

ただ、DCF法による査定⇒直接還元法による査定へと変換する過程で、数値上の誤差がどの程度出るのかを検証する意味で、g=0を前提とした直接還元法による試算結果を確認しておきます。

こちらはエクセルシートの『直接還元g=0』をご参照ください。

これは単純に前記の『礼金を年賦償還率で期間配分して求めたNCF』を、割引率と同率の還元利回りで還元することになり、結果は(当然ではとも言えますが)前項とほぼほぼ同じ結果になります。

収益価格(下2段は直接還元) 乖離率
ベースとしてのDCF法 22,590,082円
運用利回り1%で期間配分 22,111,640円 △2.12%
運用利回り=還元利回りで期間配分 22,590,100円 ±0.00%

よって、DCF法⇒直接還元法の変換による誤差は微小で、この先の検証においても本モデルを使用して良いことが確認できました。

価格評価における礼金運用利回りの直接還元法による検証(還元利回り=割引率-gの場合)

価格評価における検証の最後として、変動率gを取り入れたシミュレーションを行い、価格評価の際に使用する礼金の運用利回りとして還元利回り・割引率のいずれが適当かを検証します。

こちらはエクセルシートの『直接還元g=0.5%』をご参照ください。

ここでは、(当然ですが)最初に設定した『NCFが一定』という過程は排除して、変動率として0.5%を採用します(一般的に使用される成長率よりも若干高めですが、差異を明白にする観点からこのような設定にしました)

礼金の額は本来的には支払賃料に連動させるのが自然ですが、本件ではその想定は困難ですので、年間NCF(礼金を除く)の1ヶ月分と設定しました。

この中で、運用利回りについて、1%・4.5%(還元利回り)・5%(割引率)の3パターンを使用してシミュレートしました。結果は下表の通りです。

収益価格(下3段は直接還元) 乖離率
(素直な)DCF法 25,041,527円
運用利回り1%で期間配分 24,568,489円 △1.89%
運用利回り=還元利回りで期間配分 25,030,644円 △0.04%
運用利回り=割引率で期間配分 25,100,111円
0.23%

このシミュレーションに関しては、前2者に比べて誤差が多くなるものの、NCF・礼金・各種利回り等の設定を変更した場合においても運用利回り=還元利回りとした場合の誤差が最も少なく出ました。

よって、少なくとも帰納的には、価格評価においては礼金の利回り=還元利回りとするのが合理的と証明されたことなるでしょう。

尚、ここまで頑張ってきて今更言うのもなんですが、価格評価ではDCF入金時に実額計上・直接還元では平均回転期間に基づく平均単年度収入を計上すれば、ほとんどの場合、運用益・償却額の概念を持ち出さなくても適正な評価が行えます。

価格評価で運用益・償却額の概念を持ち出す必要が出てくるのは、一棟貸し等のテナント数が極めて少ない物件土地残余法位になるかと思います。

そして、特に前者の場合には、実際の礼金が入金されるタイミングを考えると、(既存テナントも含めた)礼金収入全額を還元利回りと同率の運用利回りをベースにした年賦償還率で期間配分してしまうと、礼金の過剰計上になる可能性が有ります。

この辺りは、理論と実態が上手く合致しないところで、案件に応じた調整もしくはこれをも含めたモデル論の策定が必要になるのでしょう。

ただ、そろそろ力尽きましたので、今回は理論的には還元利回り採用まででとどめさせていただきたいと存じます。

継続賃料評価における礼金運用益に関する考察

上記の考察から、継続賃料評価における礼金運用利回りの候補としては、①(価格評価時の)還元利回り・②期待利回りのいずれかが候補に挙がってきます(継続賃料利回りも有るにはありますが、対象外として問題ないでしょう)。

この両者の差異は、平成26年の基準改正により、期待利回りについて償却前利回りを採用することが可能になったことから狭まっていますが、純理論的には差異は有ります。

この点、正直悩ましいところで、長所・短所が相反するマトリクスが出来上がります。

還元利回り 期待利回り
長所
  • 価格と賃料での整合性が取れる
  • 市場で観測しやすい
  • 継続賃料評価において出てくる概念であるので、素直に使いやすい
  • 双方当事者は、元本⇒果実という方向性での利回りも勘案し契約の意思決定を行っている
短所
  • 賃料評価の中で価格評価の概念が出ることに対する違和感
  • 特にテナント側には、果実⇒元本という方向性での利回りについての関心は無いはず
  • 価格と賃料での整合性が取れない
  • 市場で観測し難い

但し、賃料の場合においては両当事者の合理的意思解釈が重要であり、両当事者の賃料等の決定にあたって元本と果実の相関性が(黙示ではあるものの)キーになっていることに鑑みれば、期待利回りを採用することが合理的ではないか、と今のところ考えております。

この記事のまとめ

この記事では、『礼金の運用利回りは、敷金と同じで良いのか?』・『同じでないとすれば何を用いるべきか?』について、

  • 価格評価におけるDCF法
  • 価格評価における直接還元法
  • 賃料評価

と順次検証することで、一応の私見を提示させていただきました。

そもそも近時の通説的見解(敷金と同じ)と異なりますし、昔の発想(還元利回りではなく基本利率)とも異なって困っている所では有ります。

この辺りは是非とも同業の方と意見交換をしながら方向性を固めていきたいと思っております。皆さま、是非是非ご意見等頂けますよう、よろしくお願いします。

 

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