使用借権の特徴と経済的価値(使用借権価格)

使用貸借(しようたいしゃく)とは、借主が目的物を無償で使用・収益できる契約関係をいい、当該借主の権利を「使用借権」といいます。

正直、ピンとこないかもしれませんが、親の土地の上に子供が建物を建てる(かつ地代も払わない)というのは良くあることですよね。

これが不動産で出てくる場合の使用貸借の典型例です。

※注意点1

地代の支払いを伴わずに土地を使用する形態は「使用貸借」だけでなく、「地上権設定」による場合も有り得ます(地上権の場合、必ずしも地代の支払を必要としません)。

レアケースですし、契約書等に明記されていない限り地上権とは認めがたいものですが、「地代なし」=「使用貸借」と安直に判断せずに、「地上権ではないことの確認をすること」は必要でしょう。

※注意点2

不動産の場合は、「固定資産税・都市計画税だけ払う」・「公租公課+@程度」等の使用料を払うという契約も結構有ります。

これも「対価性が認められないとして」使用貸借に当たるので、注意してください。

使用借権の特徴

使用借権は、そもそも物を無償で使わしてもらう権利ですので、非常に弱い権利です。

局面ごとに、賃借権を横目に見つつまとめてみますと、以下のような違いが有ります。

使用借権は譲渡性が無い

例えば借地権/使用借権を権原とした建物を所有している場合を考えますと、借地権であれば「地主の承諾」もしくはこれに代わる「裁判所の許可」があれば譲渡が出来ます。

ですので、これらの手続きを経ることで土地利用権付の「借地権付建物」として譲渡することが可能です。

しかし、使用借権には譲渡性がありませんので、建物自体の売買は出来るものの、建物の売買によって土地所有者は民法第594条2項・3項により「使用貸借契約の解除」を主張し、建物の購入者に対して「建物の収去ならびに土地の明渡し」を請求することが出来るようになります(これが行われると、建物所有者は建物を取り壊して出て行かなければならなくなります)。

競売等で「土地が使用貸借」となっている物件がまれに有るようですが、上記の通り地主から建物取り壊し・退去を求められる可能性が有ります。

建物を使用収益し続けるには、土地所有者と新たに権利設定(新たに借地契約を締結する等)を行う必要が有ります。

使用貸借には借用物返還の定めが有り、借地借家法の適用なし

契約更新が前提の借地権と違い、借用物の返還の時期について以下の定めが有ります。

民法第597条

  1. 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
  2. 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
  3. 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。

また使用貸借には、借地借家法の適用は有りません。

使用借権は、相続の対象にならない

借地権付建物の所有者の死亡により相続が発生した時は、建物所有権はもちろん借地権も相続されますので、相続人は「借地権付建物」(借地権という敷地利用権を有する建物)を相続することになります。

ですので、地代の支払いを続けることによって、当該建物を使用・収益し続けることが出来ます。

これに対し使用貸借の場合、恩恵的な契約であるが故に借主の死亡で終了し(民法第599条)、相続の対象にもなりません。

もちろん地上建物は相続対象になるので、相続人は「敷地利用権を有しない建物」を相続することになり、土地所有者より「建物の収去ならびに土地の明渡し」請求を受け得る立場となります(建物の使用・収益を続けるには、土地所有者との間で新たな権利設定を行う必要があります)。

なお、上記は「借主」側の死亡に関する規定で、「貸主」(地主)側が死亡した場合には、通常通り使用貸主としての地位を引き継ぎます。

使用借権の経済価値は?

上記のように、弱い権利である使用借権は、少なくとも一般の売買においては経済価値を認めがたいものとなります(むしろ建物価値のマイナス要因として働くというのが実際の所でしょう)。

但し、以下のような場面で、使用借権の経済価値把握が必要となります。

第三者からの権利侵害があった場合

最高裁判所の判例( 平成6年10月11日・事件番号平成3(オ)825)で、

  • 地上にある建物がなくなるまで(朽廃・滅失など)という期限で土地の使用貸借が契約され、使用貸借人が自己所有建物を賃貸に供していた場合に、
  • 建物賃借人が失火で建物を全焼させたという事例(建物が全焼したことで使用貸借契約は消滅する)において、

賃借人に対して「建物価格+土地利用に関する経済的利益(使用借権に係る利益)」についての損害賠償を認めています。

この判例は、使用借権の経済価値を認めたものと評価されますが、「通常であれば継続する使用借権が、失火によって消滅した」という特殊事情を前提とする点は留意が必要です。

公共用地買収等に係る場合

公共用地買収等に伴って使用借権付建物が買収される場合において、「公共用地の取得に伴う損失補償基準」では、借地権価格の1/3(借地権割合が60%のエリアで有れば、更地価格の20%)が補償されます。

この規定については、前者と同様に、「通常であれば継続する使用借権が、用地買収によって消滅する」という特殊事情と、「確実な代替地等取得取得のための補償」という制度理念が存する点に留意が必要です。

遺産分割協議の際の基礎資料として

遺産分割協議等の中で、建物が使用貸借を権原として建っている場合、建物の価格を「単純な建物価格」としてみるのか「使用借権付価格としてみるのか」、裏返せば土地を「更地価格」としてみるのか「使用借権の付着した土地」としてみるのかは、正直統一的な見解はありません。

個々の部分を「権利の観点」から見ますと、確かに建物には使用借権が付着しているので土地利用権の無い建物より有利で、土地にも使用借権が付着しているので更地よりも制限を受けます。

但し、使用借権付建物は、前述の通り、一般の市場においては極めて市場性が乏しいものとなります。

また、現況に準じた利用が継続するとするとして、当事者の利益衡量を行うと

  • 今まで地代も払わず建物を使用収益してきた建物所有者は、今後もこの状態が継続していく(=取り分は少なくても良い方向に働く)
  • 土地所有者は、今後も土地を利用できず、無償使用を許容せざるを得ない(=取り分は多く会ってほしい方向に働く)

という方向に働いてしまいます。

この中での結論に関しては、訴訟等になった場合にも、裁判所の管轄によって結論が異なっているとのことですが、『建物は単純な建物価格』・『土地は更地価格』と把握するのが、

  • 一般的な当事者の意思解釈
  • 双方当事者の利益衡量

の観点から、最も妥当性が認められるのではないか、と言うのが私見です。

 

2 Responses to “使用借権の特徴と経済的価値(使用借権価格)”

  1. 「使用貸借」について調べていてこの記事を拝見致しました。差支えなければお教えいただきたいのですが、民法第597条に、「当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。」とあります。例えばAが所有する建築物(土地も)に、友人であるBが居住、上記の様な定めはなかったとします。ある日、友人関係が壊れ、AがBに退去を請求した場合、Bがこれを拒否するとどうなるのでしょうか?

    • コメントありがとうございます。後程メールの方に返信を入れさせていただきます。

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